美術鑑賞社 04(zero-four)ギャラリー
2004年5月10日


 

 第23回選抜香瓔百人展

 長年使用してきたこの会場も今回が最後。次回からは、より広く天井も高い、灘区の原田の森ギャラリ―(兵庫県立美術館王子分室)へと会場を移す。これを意識し、選抜出品者も昨年の70名から100名へと増加した。

 榎倉香邨会長が率いる香瓔会は、あくまで実作本位主義を貫き通している。併催の意臨展では、各自100点の出品作から、相互の投票により、45点まで作品を絞り込んでおり、この点だけをみても会風が如何に開かれているかが、窺い知れよう。

 この選抜展では、毎回異なったテ―マが設定される。昨年は出品者が各々に自分のテ―マを掲げての発表だったが、今年はその延長線上に『変身を考える』が主題となった。ふだんは行っていない、別の自分への可能性を自然体の中で模索し、いつもとは違う作調への変貌が試みられた。

 榎倉香邨会長は若山牧水の《真昼日の…》他三首で「海の声」(=作品写真右側上)。余白の美を大切にする氏にしては珍しく、銀色の料紙を使用し、素材に相応しい清冽な横への展開で、行間の揺れも効果的に、その詩情を巧みに表出して自ら範を見事に示す。光宗道子副会長は《田兒の浦…》他一首の萬葉歌で「富士」(=作品写真左上)。臙脂色の波形のグラデ―ションを基調とした二曲屏風の中央上方に、団扇形の料紙を意図的に浮かべ、実作上の冴えある鋭き線質との対比で意表をつく。

 他、掲載の小林章郎「峻烈、」(=作品写真右側下)、畑林畊陽「春望」(=作品写真左側下)をはじめ、着目された作品は実に多く、岩永栖邨、西川寿一、吉田奈可など、幾多の割愛があったことを付記しておきたい。また1階特別展示室では、フレッシュな第11期研究生グル―プ蕾書作展も併催。

(3・13〜14、兵庫県民ア―トギャラリ―)

  


 

 第38回東方展

 中堅層の作家たちが、台頭してきたのは喜ばしいことだ。小団体は、小さいなりに、その力を貯えてゆくのが、発展への近道なのである。

 現在では創立会員も、東部と京都に、各1名を残すのみ。結城天童「春きたる」(=作品写真右側上)は、雪解けの山村に、一歩一歩近づく春の気配を、柔らかな描出のなかに感じさせる。水墨を思わせる湿りを帯びた叙情性が心にしみてくる。同・大塚達夫「想の刻」の大作(500 変)は、現代社会へのイメ―ジを壮大に刻んでゆくし、結城巧「海市」(=作品写真左側下)は、波打つ海岸の白い鳥、はるか水平線に高層ビルと、ここでも現代の視点が風景に組み込まれている。

 時田尚武「苑庭春風」(=作品写真左側上)は、大きく羽を広げた孔雀を画面一杯に収める。眼状模様のきらびやかさをやや抑え、色調の全体リズム形成が快い。高頭信子「湖水彩」(=作品写真右側下)。漆黒の夜空に炸裂する花火。この作家特有のダイナミックな表現呼吸が、感動を直截に伝える。大塚扶佐子「春待」は、雪降る山中で樹の枝にいる三疋の親子猿。その優しさに満ちた表情に心ひかれる。山下サキ枝の「冠鶴」=奨励賞におけるユニ―クな鳥の姿態の、確かな描写にこもるユ―モラス。動きが殊に面白い。

 協会賞には竹島公子、筒井燿也美、遠藤啓子。他、推賞、推挙の各作も高水準を保つ。 【佃 堅輔】

(3・14〜24、東京都美術館)

 


 

 第44回日本南画院展

 水墨画における伝統性(南画)を純粋に現在に活かしてゆく試みは、水墨画の可能性を、何処まで拡げてゆくことになるかという問題であろう。『新南画』に近代的リアリズムを導入しようとする傾向の発展を見守ってゆきたいと思う。

 社団法人日本南画院の会長として、百一歳となられてもなお矍鑠たる直原玉青の「淀川原」(=作品写真右側上)は、この作家の自然観賞のスケ―ルの大きさを感じとらせ、それが今日に至る描写力の基礎となっていることを理解させる。

 古代ギリシャへの追憶から、南フランスをモティ―フとした町田泰宣理事長「懐古・アルルのはね橋」(=作品写真左)。単純化した線描によるはね橋を挟んで、上下区分した夜空と水面の墨色が、斬新な感覚的心象風景となっている。

 前作とのシリ―ズとみなされる市川晧副理事長の「雪峻大河」(=作品写真右側下)。眼前に圧倒的に立ちはだかる自然の姿と、これに対比される二羽の飛び交う鳥。画家の抱く自然は、生命のドラマなのだろう。

 主な受賞者。文部科学大臣賞=小柳種世。衆議院議長賞=月居和子。日本南画院賞=福岡紫石、井ノ口八弘、菊地亨。楽土賞=矢田作十路。玉青賞=宮下外茂子。 【佃 堅輔】

(3・14〜24、東京都美術館)

  


 

 第56回三軌展

 記念展の後は、一般的に中だるみとなりがちだが、会場で或る種の緊張感を覚えるのは、作家のテ―マ性によるところが大きいからであろう。

 ニュ―ヨ―クの同時多発テロ以来、時代を直視して描き続ける森田一男の「戦禍」(=作品写真右側上)は、いっそう内容的に時代の暗さを浮き彫りにする。両腕を、それどころか片脚も失った子供の悲しみの表情が心を打つ。

 吉田嵩「街」(=作品写真左側上)は、幾何学的構成のフォルムが、透明感のなかに冷やかな人間疎外をもたらす光景を示す。山田幸夫「連鎖」=文部科学大臣奨励賞(=作品写真右側下)は、牛骨などのオブジェが無機質の連鎖を呼び起こす室内空間の深い沈黙。鳥羽佐知子の「終わらない旅」=三軌会賞(=作品写真左側下)は、廃船と思いにふける二人の女性像に、あてどなくさまよう現代人を見る。樹木の生命力に寂としたものを感じ取る山崎巨延「寂寂」=会員優賞でのリアリティ―。大槌隆「潮騒は聞こえない」=互井賞の、海も死にゆく寒々とした心象風景などが印象に残る。

 主な受賞者。会友優賞=山根せい子。新人賞=川島信一。損保ジャパン美術財団奨励賞=庄子明宏。他各賞多数。 【佃 堅輔】

(3・24〜4・4、東京都美術館)

 


 

 第57回示現会展

 初入選を含めた一般入選者229名は、この会が歴史的に形成した実力である。これを活かすべく新たなコンセプトが導入されることが望まれよう。

 昨年度の春の奥入瀬に対し、奈良岡正夫会長は「奥入瀬(冬)」(=作品写真右側上)。渓流の雪を被った岩々の間を流れる水と、奥行きの雪に煙るような枯れ木の佇まい。この風景を知り尽くして描く画家の自然観の表出の味わい。松木重雄理事長「エスキキャフタ」(=作品写真左側上)。廃墟と化した歴史的遺跡の実感的描写の迫力は、光の効果により一層強まる。

 樋口洋の「白い函館」(=作品写真左側下)。修道院から眺望される冬の日の函館の海。静寂なるロマンティズムへの誘い。錦織重治「澄春」。残雪の山岳と芽吹き始めた樹々、青い水面。訪れ来る春の呼吸がある。正木茂「扉」(=作品写真右側下)。青色の扉と白い石壁のカフェ。エトランゼの見出す斬新な感覚。

 土肥朗の「邂逅」=示現会賞。重厚な建築物の扉から見る犬とカラスへの視点がユニ―ク。丸山孝晴「船影と少年」=損保ジャパン美術財団奨励賞。荒削りな表現のリアリティ―に込められる海辺の詩情。他、深津美南子「午後の休息」にも注目。 【佃 堅輔】

(4・6〜21、東京都美術館)

 


 

 第63回創元展

 搬入点数1,243点に対し、入選点数は231点。去年より搬入点数は減ったが、会は着実に歩んでいる。ベテラン作家に迫る、中堅層の進出が期待される。

 工藤和男理事長「アドリア海の漁師」(=作品写真右側上)。海で働く人間群の生彩あるリアリティ。作品シリ―ズは益々充実してきた。守屋順吉副理事長「寂光」(=作品写真左側上)。宗教的テーマに剥落の美を付与する画面のマティエ―ルが印象に残る。

 島崎庸夫「闇中問答」(=作品写真右側下)は、今なお続く戦争の重いテ―マに、人間生存の危機を訴えてやまない。北島精六「陽光」。赤い服装の若い女性と羽を広げた孔雀の組合せに、ロマン化されゆく華やぎを見る。高比良昭光「西安記」(=作品写真左側下)。同一テ―マのヴァリエ―ションに深さが増してきた。俑の立像が強さを持つ。

 松崎良夫「浮翔」。女性三様のポ―ズの確かなデッサン力。モノクロに近い色調に、現代感覚が織り込まれる。柳沢千代見「集落」。暗青色の色調に、家々が重いリアリティとして表現される。

 主な受賞者。文部科学大臣奨励賞=三井桂。損保ジャパン美術財団奨励賞=高柳紘子。会員賞=大津勝郎、大島和芳。鈴木千久馬賞=深井米勝。中野和高賞=久米庸江。田中繁吉賞=須藤初雄。会員新人賞=古賀英治、富田貞見。 【佃 堅輔】

(4・6〜21、東京都美術館)

 


  

 プロムナード

 チャンスというものはしばしばあるものでは無い以上、出品作品の一点に賭け切る制作者の態度に、大きな問題があるのではないかと思われてならない。数多い展覧会を見て歩きながら、この頃特に痛感されるようになったのは、やはり昔の人がいったように、芸術は長いが、人生は短いからであろうか。

 病気ばかりでなく、交通事故など、明日はどうなるか本人にも、全く解らないのである。とすれば、只今の一作が絶筆となるかも計り知れない。

 せっかく作家になった以上、今生に悔いを残さぬよう、制作に際してはせめて全力を挙げるべきであろう。今度生まれ変わって来る時は何になるのか、その保証など何処にも無いからである。

 


 

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