美術鑑賞社 03(zero-three)ギャラリー
2003年1月10日


第34回 日 展

 第34回日展を迎えて 理事長 橋本堅太郎

 「歴史」や「伝統」は、その蓄積の継承にのみ重きが置かれ、時に、大胆な進取の姿勢を忘れさせることがあります。

 このような時に必要なことは、一つには、時代の流れを柔軟に受け止めることであり、一つには、その息吹を自己の表現の中に活かそうとするスタンスをとることです。

 社団法人となり、改組して、もう日展は34回を数えます。すでに会員や入選者の殆どが、歴史と伝統を持った「日展」で育った人々の時代です。

 私たちは気を引き締めて、「歴史」や「伝統」に溺れることなく、スキルに裏打ちされた表現に向け、研鑽と努力を重ねる所存です。

 皆様方の、これ迄以上のご支援、ご鞭撻をお願い申し上げます。

 


 

 第1科 日本画

 審査所感 主 任 大山忠作

 本年度の第34回日展日本画の搬入総数は、昨年に比べ若干の減少をみたが、応募作品の内容は、前向きの意欲的な作品が多く見られた。

 残念ながら今回選にもれた作品の中にも、惜しい作品が多々あり、更なる精進を期待する次第である。

 また、新入選が35点にも及んだ事は、応募作品の減少を補って余りあるものであり、今後の明るい見通しとして喜ばしい限りである。

 特選について

 特選の作品は、技術の充実と発想の自由さが目立ち、新しい時代に向かっての流れが感じられ心強く思った。

高 原   高山辰雄
屹   奥田元宋
光池游々   大山忠作

 会場効果と水準の向上

 日本画の現時点における在り方の問題にもなろうが、年々、エリ―ト意識のようなものが、審査する側にも濃厚となった為か、或いはその当然な反映とでもいうべきか、新進気鋭の第一室から、メインとなる第4・5室を経て、第21室に至り陳列された作品には、最後までいずれもスマ―トな印象が一貫された。

 各一点一点に注がれている細やかな神経が、実に行儀よく洗練されており、総体的な会場効果を上げ、何の誘発や抵抗もなしに、楽しく鑑賞層を誘導している。これは、堅実な一年毎の水準向上を裏付ける、何よりの実証であり、なおかつ、比較的に見れば少数であるだけに、より実質的だからでもあろう。

 一部を除けば、老大家も新鋭も、技術的には明らかな差があっても、官展以来の伝統技術を守り続けており、安定は専らそこに寄るところ大とされるであろう。いわゆる日展調というものがすっかり定着し、今後はなおますます入選も厳しくなるに相違ない。それというのは、応募作品の多寡に関らず、水準の向上に伴う壁面の充実に対し、そこに到達するまでの技術錬成が、一方だんだん困難な世相になってゆくからである。

 今日、本格的に日本画顔料を駆使するための修養年限というものが、果してどの程度なのかは知らないが、少なくとも10年、15年を要することに、昔も今も変わりはないであろう。

 


 

 第2科 洋 画

 審査所感 主 任 中山忠彦

 良い審査をするためには先ず良い審査員を選ばねばならない。複数の研究団体によって構成される日展洋画に於いては、とりわけそれが重要視される。

 ここ数年来、結果は顕著な効果を表し、今年もまた叡智が集められて滞りない審査を終えることが出来た。

 昨年比で95名の出品作の減少を見たが、これはボ―ダ―ラインの不出品と見られ、実質に影響はない。入選は、昨年を3点下まわって397点。傾向内容共に昨年とほぼ変わりはない。

 写実の伝統を維持しながら、常に時代の息吹を導入したいと願い、視点の確かな作品を期待してやまない。

 入選、受賞の皆様へのお祝いと、審査員諸氏へ心より御礼を申し上げる次第である。

 特選について

 今回の特選10名は、今後を嘱望される作家達であり、例年第1室で審査員の諸作と向かい合って陳列される。

 選ぶ側と選ばれる側の作品上の勝負も話題を集め、本年もまた期待を背負って登場する。傾向、モチ―フは各種だが、注目に価する優作である。

 新たな世紀の2年目、刮目して日展の将来を彼等に託したい。

堀割りに咲く桜花   森田 茂
犬吠埼   平松 譲
壁掛けのある部屋

中山忠彦

 作家・作品の向上と前進

 力と技の表現によるコンク―ルには、競技大会にも共通する面が多いからであろう。この日展を一つのピ―クとする展覧会場の出品作品も、水準が年々向上し、逞しく活発な新鋭の意欲には、見るべきものが非常に多くなっている。受賞の各作は当然代表格とされて然るべきながら、更に入選群や委嘱、また水彩にも新鮮な作品が目についた。

 それと同時に、これらの中堅や新人から突き上げられて、どんどん消え去る老練作家の数もめまぐるしいばかりで、一見太平ムードの水面とは全く裏腹に、底流はいつの時代でも激しく非情な点は、これまた変わりがない事になる。ヒ―ロ―もスタ―も、一定期間を過ぎれば、交替期は避けられないからであろう。

 


 

 第3科 彫 刻

 審査所感 主 任 中村晋也

 出品点数は僅かの減であった。反面、新しい視点から、社会現象を捉えようとする傾向の作品など多彩であったことが、今回の特色といえよう。

 いま「生きている」という実感が伝わり、訴求力のあるメッセージが読み取れるような作品に出会ったことは、審査する側からは嬉しいことであった。今後このような作品が増加することを期待したいものです。

 特選について

 特選は手堅い表現手法のものが多く選ばれているが、いずれも緊張感があり見応えのあるものとなった。更に真摯に自己研鑽に励まれることを望むものです。

プロロ―グ   富永直樹
念ずる   橋本堅太郎
雲 海   長谷川 昂
 


 

 第4科 工芸美術

 審査所感 主 任 蓮田修吾郎

 第34回日展の第四科工芸美術の応募点数は1133点であった。作品は概して粒ぞろいで、力作、意欲作が多く見られた。そのため鑑審査にあたっては、入落を即決する事なく、入選と保留に二分し、保留の作品については何度も慎重に検討し、公正かつ厳正に選別した。

 工芸美術は種目も多く表現方法も多様化している。その中で、素材の持つ特色を充分に活かした作品、技術的には少々荒削りでも独創性に富み、将来に光を感ずるものを評価した。作品に生命力の乏しいもの、模倣性が強くマンネリ化の感じられる作品には厳しく対処した。

 しかし、総じて、今回の鑑審査に当たっては、作者の力量が感じられることが多く、基礎をふまえた展開に新しさを添えたユニ―クな作品が数多くあった。今回、初入選が67点に達したことと合わせ、将来が期待され、誠によろこばしい事である。

 特選について

 特選作品の選考にあたっては、厳しく慎重な審査の中、工芸美術界の新しい息吹を感じることのできるオリジナリティあふれる作品であること、素材を活かし、技術的にも卓越した作品であることなどを、総合的に評価し、最終的に、10点を特選作品として決定した。

 特選作品は工芸美術のさまざまな分野にわたっており、それぞれ卓越した作品として選考されたものである。今後、受賞者が更に意欲的な創作に励むことで、後進の者へ大きな刺激となり、各分野の発展につながる事を期待する。

白銅浮彫 雲たなびく羊蹄山

蓮田修吾郎

花 暦   奥田小由女
樹 象   河合誓徳
 


 

 第5科  

 審査所感 主 任 古谷蒼韻

 応募数は例年とほぼ同じの8265点。その8・6%にあたる707点が入選。陳列壁面に限度があり極めて厳しい結果となった。

 入選作品は、いずれも精彩に富み錬度も高く、しかるべき水準を示していた。

 応募作品全般の内容については、例年なみとはいえ必ずしも満足できる状態ではなかった。一層の熱意と格別の努力の蓄積を願いたいとは多くの審査員の一致した感想であった。

 漢字、かな、篆刻の作品は、長い伝統を踏まえ数多い名蹟に接しているためか安定感があった。しかし、安定の中に安住してしまうと魅力が失せてしまう。古典という宝庫から、自分独自の感性で、何をどのように活かして個性をつくりあげるかという、そんな自覚を持つ人が増えてほしいと思った。

 調和体は、書の古典に対する究め方の深浅によって質差が生まれる。漢字、かなの古典を軽視して調和体だけを勉強してもよくなることはない。今後の書の大切な部門だけに、正統な方向の摸索と輝かしい発展とを期待したい。

 出品作家に期待することは、技術的な錬磨と共に、視覚を超えた世界にも意を注ぎ、心に訴えかけるような作品にも心がけてほしいことである。

 特選について

 特選作品の選考については、始めに第一次候補作品50数点を選出。審査員の慎重な話し合いにより22点を最終候補作品とし、次いで全審査員による無記名各部門毎の連記投票によって、上位10点を選出し特選とした。内訳は漢字5点、かな3点、篆刻1点、調和体1点である。それぞれの作品は、よき伝統の精髄を現代的な感性で濾過し、独自性豊かな個性と風格を具備した優作である。

南溪晩歸 村上三島
千 鳥    杉岡華邨
清    古谷蒼韻

 幹部陣容と精鋭・新人

 新たなる世紀も2年目となり、日展書道もすっかり安定の座を確保し、幹部陣から精鋭や中堅、そして新人へと一貫される伝統技術にも、確かな一本の筋が通っている。

 もちろん全国スケ―ルにおいても、他の諸団体とはその在り方が既に大きく異なるという関係もあり、総搬入数こそ前年度比125点減とはいえ、入選率は未だ8・6%という厳選の中、流石に選ばれた作品の水準は、一段の高まりをみせている。

 関東、関西のみに止まらず、各県、各地域に渡り、著しい進捗を示しており、その面目は大いに誇るに足る、晴舞台といって良いであろう。

 顧問、常務理事、理事、参事、参与から、評議員、会員、無鑑査、特選及び一般公募の中からの入選作品を通覧して感ずることは、いろいろな流派はあっても、とも角、一作に賭ける錬成にも、実に真摯な姿勢がうかがえ、大展覧会場に出陳するという気構えに、あまねく気力が横溢しており、どの一点にも、感動させるに充分な誠意が漲っていたことである。

 一国を代表する日展としては、当然といわれるであろうが、最高水準の実力が結集されており、また伝統書道としての完成度においても、まさに見事の一言につきる。更には書の大殿堂たる使命として、アカデミズムの確立にも、大いなる期待を寄せたいと思う。

 


 

 日展巡回日程

 既に東京での会期を終了した第34回日展の、今後の巡回予定は以下の10地区。◆京都=12・14〜1・13/京都市美術館◆名古屋=平成15年1・22〜2・16/愛知県美術館ギャラリー◆大阪=2・23〜3・23/大阪市立美術館◆福岡=3・28〜4・13/福岡市美術館◆富山=4・19〜5・11/富山県民会館美術館◆福山=6・14〜7・6/ふくやま美術館◆松本=7・12〜8・17/松本市美術館◆福井=8・23〜9・14/福井県立美術館◆弘前=9・20〜10・10/青森県武道館◆那覇=11・6〜12・7/那覇市民体育館

 マ 社団法人日展の公式ホームページはこちらです

   


  

 プロムナード

 変革期に対決の体勢を

 明けましておめでとうございます。本年も宜しくお願い申し上げます。

 久しい沈滞。新たなる世紀は静かにその幕を上げ、早二年が過ぎたが、今後はあらゆる世情からしても、世界を挙げて激動の時代に突入せざるを得ない年回りのようである。国際情勢は元より、政治、経済と同様に、当然文化一切に至る大きな変革さえも、予想されないことはない。従って我が美術界においても、果してどう変わってゆくかの問題は、ここでは予断を許されないにしても、惰性の延長上では、如何とも成し難いであろう。

 21世紀における最初のヤマ場を目前とした今、美術人はあくまで美術人として、速やかに対決の体勢を、先ずは整備すべきではないかと、思われてならないのである。

 


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