21世紀の初頭から、一年と三ヶ月にわたり、北は北海道から南は沖縄まで、日本各地で催されてきた、香瓔会創立20周年記念の全国展開五千人展も、いよいよこの展覧会をもって最後となった。
掉尾を飾る選抜展のテーマは『線の練り』。基調となる古典も多岐にわたっており、素材となる語句も萬葉から近代へと幅広く、額、パネル、屏風、巻子、折帖等、大字から細字にいたるまで、作品はバラエティーさに富んでいる。
一年を通じての錬成が問われての選抜であり、今年は全体の三割が、入れ替えの対象となった。要は各自の取り組み如何に関わるだけに、他にはない本質的な厳しさがここにある。古典をしっかりと消化してこその創作であり、作品の奥行きと幅は、その反映とも言えるであろう。
榎倉香邨会長は、寸松庵色紙を基調に、若山牧水のうた「春淺し」他九首(=作品写真右上・部分)を、縦75×横380Bのパネルに一糸乱れぬ呼吸で展開し、古典と現代の融和を見事に具現化。副会長の尾形研陽は、佐理書状にて「金槐和歌集のうた」(=作品写真左上)をパネルに仕立て、スピード感ある運筆で、行間の余白バランスを活かす。同・光宗道子は、二曲屏風に一条摂政集で枕草子より「華やぎ」(=作品写真右側・部分)。波模様をバックに、円形料紙を山型に重ね、構成的にも趣向を凝らす。
岩永栖邨は紺地に金泥の二曲屏風。高野切第三種を基調に「春秋」の二句を、発色も美しく対比させる。巻子の小林章郎は、一条摂政集にて「手まりつき」。肩肘を張らぬ、良寛の世界に魅せられる。西川寿一も巻子に中務集で「戯れ」。近年来続けてきた好色五人女も、この作で一応の完結をみる。他、主なところでは吉田奈可「あけぼの」、畑林畊陽「梅の花」、上山淑子「かりほ」、高廣幸悠「蕾」、林浩一「志気」等々。
(3・30〜31、兵庫県民アートギャラリー)
例年なら上野の杜の桜も満開の中で開幕する同展だが、今年は桜の開花が早く、会期の頃には既に花見もピークをとうに終えていた。花の示現とはならなかったものの、第55回という一つの節目を迎えた会場には、第21室までに899点という力作が出揃い、引き締まった壁面が展開された。
奈良岡正夫会長は、ひたすら動物に優しい眼差しを注ぐ「仔山羊」(=作品写真右上)を発表。松木重雄理事長は、「アナムール城」(=作品写真左)で、中世の歴史的ロマンを実感的に描写。樹木の生命力を早春という季節のなかに塗りこめる三上浩「待春」。内藤定昭の「博物館」は、静閑たる雰囲気の館内風景だが、重厚さのみならず、何かしら温もりが感じられる。
これらのベテラン勢に加え、メインストリートの第6室では、冬の冷気にそびえる雪山と水辺の樹々への朝の陽光を描き出す、錦織重治の「朝光」にも着目された。
第1室では、雪国の街のなかに、北国の詩情をとらえる樋口洋「函館十字街」(=作品写真右)。ヨーロッパの古い緑色の扉に、エトランゼの美的感覚を見出す正木茂「扉」(=作品写真左)。その他に、示現会賞に輝いた深津美南子「記憶の刻」、示現会奨励賞の水谷圭一「網と環」、及び安田火災美術財団奨励賞となった小林啓治「鍋田横穴古墳」も見逃せまい。ともに充分力量を感じさせる。今後の作品展開に期待したい。
他、主な受賞者。示現会奨励賞=小菅智恵子。佳作賞=五十嵐明子、田中慧、中北智恵、斎藤睦子、綿貫悦子ら11名。大内田賞=金正明。楢原賞=出口順治。会員推挙=相浦敬次郎、菅原温恵ら20名。準会員推挙=27名。会友推挙=37名。 【佃 堅輔】
(4・6〜21、東京都美術館)
昨年、60周年記念年を迎えたこの会は、より一層の充実ぶりを示している。これからの課題は、いかにしてこれからの新人を、育成してゆくかにあると言えよう。
工藤和男理事長「コンブ採取の浜」(=作品写真右)の生活感。副理事長を務める守屋順吉「遥」(=作品写真左)の神話的ロマンや、北島精六「春光」の華やぎ、及び島崎庸夫の「えてるにて」に見られる幻想性など。理事では高比良昭光「西安紀行」(=作品写真右下)の歴史的リアリティの物語性等々。会をリードする作家たちの個性は、実に伸びやかだ。
とりわけ、文部科学大臣奨励賞の倉林愛二郎「刻」は、描写力のなかに日常詩を折り込み注目される。安田火災美術財団奨励賞となった奥田敬介「過ぎし日の想い」の表現感覚も良い。この二つの賞は、一般・会員を対象としたものだが、正会員を対象とした賞も、具象・抽象的傾向が入り混じり、会の層の厚さが感じられる。
他、主な受賞者は、会員賞=大木美智子、多故忠文。鈴木千久馬賞=棚谷寿夫。中野和高賞=樫村良江。田中繁吉賞=馬場豊。会員新人賞=池田つた子、横森秀彦。および準会員賞では、宮崎米作。会友・一般対象のなかでは、創元会次賞=渡部憲幸。東京都知事賞=池上わかな。柏賞=三田マリ子、木原由美子などに注目。 【佃 堅輔】
(4・6〜21、東京都美術館)
銀座一丁目中央通りに面する貴金属店の、四・五階画廊を使用しての選抜展ではあるが、優雅な雰囲気の漂う上品な展覧会となった。墨を主体とする作品と、この雰囲気ならば、伽羅か白檀の香りに満ちた会場演出が、あってもよいのではないだろうか。
理事長を務める加藤弥寿子の「濕原」は、遠景の山の処理を、安易にした感なきにしもあらずだが、今回掲載とした「ぶどう」(=作品写真右)は、筆勢、構図、彩色、空白部、及び文字バランス等、全てが絶妙である。副理事長畑佐祝融の「樹林」(=作品写真右下)は、対角線方向に連なる樹林の配置でその深さを、これら木々の梢付近に差し込む月の光で、静寂と冷気を感じる意欲作。同・湯原良江の「紫陽花」(=作品写真左)は、大作であるだけに、花の処理がやや雑になったかに思われるが、会津八一の歌の配置は良い。
常任理事陣では、平山牧秀の「緩む」は、水面を描く筆運びはさすがであるが、空が濃すぎる点はいかがなものか。玉置勤の「深渊天竜峡」は、空の表現が美しい。
理事に移って、橋場棋樹の「富貴花」は、繊細で手慣れた運筆の作品。色紙に描いた土端羊石の「木蓮」は、ファンタジックな佳作であり、早春の夢が感じられる。加えては佐藤巴子の「かに」も秀作。高野雪堂「春近し」は、雪の質感表現秀。小沢和子の「瀑声」は、滝と水煙共に良。 【小島一郎】
(4・11〜16、銀座プルミエール)
先師の平田華邑亡き後10年、本当によくぞ続けてきたものと思う。会期中の28日には、三井ガーデンホテルに於いて、文化勲章授章者の杉岡華邨氏を初め、地元のそうそうたる名士を迎えて、約240名からなる祝賀懇親会が、盛会に行われた。
今年も会期を二分し、前期が26、27日で理事、会員、公募。後期28、29日を理事、委員としての展示。総出品数は532点。出品作は額装の二×六尺を主体に、二×八尺や半切等、そして折帖や巻子に、小品も交えられる。
会場正面に、松塚玲糸会長の二曲屏風。作品は手中の細字で「わが庭に…」他十首(=作品写真右上・部分)。前半を一律の調子で連綿と綴り、後半は散らしを入れて変化を出す。一貫した気力の集中は流石と思われた。その対面ロビーには、吉川美恵子副会長の、パネル4枚の大作「飛ぶ鳥の…」他二首(=作品写真左上)。墨の潤渇、空間を活かした作調は歯切れ良く、少しおとなしめにして情感を出した。新井蒼雨理事長は会長の右横。良く書くという上田三四二の歌の、最初の一字を『六』に変えて自分の歳にあてはめた「六十八歳あした試筆の墨にほふ…」(=作品写真右側下)に自らの心境をそのまま重ね、落ち着いた墨色が実に心地良い。
その他、主なところでは大嶋三峰「かはづなく…」他一首、大庭松翠「春さらば…」、河合保秀「心ぐき…」、森貴三子「池水に…」他一首等々。区切りを立派に果たし、新たなる一歩に、更に今後への期待が繋がる。
(4・26〜28、奈良県文化会館)
日展会員で日本書芸院参事、そして千草会の会長として、目覚ましい活躍をみせる女流書家の逸材、山田勝香氏の大規模な個展が開催された。
昭和28年、田中塊堂に師事し、同32年に日展初入選。千草会副会長となり、同39年には日展特選(苞竹賞)を受賞。今回の出品作は、ちょうどこの年あたりから、現在に至る75点となっている。
亡き師の『詩情表現』という精神を受け継ぎ、更に進化した書風は、六曲半層の「古今和歌集」外六首、及び四曲屏風「磨崖佛」をはじめ、軸を主体に額、巻子などの各作に、自然の流れのなかにも、独自な動きが心地よく表現されている。素材も万葉、平安時代から近代、現代へと幅広く、変体仮名をほとんど用いない作も、結構見受けられる。
回廊形式の会場には、各一作が要所を押さえて配置され、持てる筆技の全貌を遍く伝えており、その書風を一度は訪ねんと、会場は盛況を極めていた。(作品写真右上「岩蔭をながれでて鴛鴦美しき」60×84cm、左側「若草や水の滴る蜆籠」113×25cm)
(5・1〜5、大阪三越5階北浜三越ホール)
プロムナード・書画短信
◇東紅会書展 故・坪井正庵ゆかりの会。柳澤弘子を代表に、34名が仮名作品を主に詩文書も交えての発表。隔年ペ−スの和やかな会場に、各々が佳品を揃えて。 3・12〜17 銀座タカゲン画廊
◇第29回玉翠社展 主宰佐久間康之。役員16名は多摩の自然をテーマに、会員92名が詩文書を主体としてこれに続く。 3・15〜17 青梅市民会館
◇第47回雅遊会書展 会長柴田侑堂以下、三井清山ら59名が、質実たる漢字に覇気溢れる作品で。 3・16〜20、銀座書廊
◇第48回栴檀社書展 大石隆子の遺作「雨」を囲み、藤木正次理事長以下103名が、定評の細字仮名や、壁面への中、大字展開に新たな歩みで果敢なる挑戦。 3・19〜24 東京銀座画廊・美術館
◇第41回書壇院竹心展 理事長大野篁軒。今回より内容を大きく変え、審査会員中より実績者100名を選抜。会員展は別となる。真の実力本位の今後が楽しみ。 3・19〜24 東京セントラル美術館
◇第18回最高賞作家ミニ作品展 主催=M書道新聞社。一年を通じ、全国で開催される書展の最高賞に輝いた作家100名を一堂にしての書展。名企画として既に定着。 3・19〜24 銀座鳩居堂画廊
◇第11回青祥会書展 回瀾書道会の本展で最高の青陵賞を受賞した者のみによる、隔年ペースでの代表作家展。水野精一ら6名が、各5〜6点の力作で。 3・21〜26 銀座松坂屋カトレヤサロン
◇第30回記念伯威会書展 今年は奇しくも田中海庵27回忌にあたり、遺墨21点と折手本や著書、文献等を展示し先師を偲んだ。会員42名が年に一度の親睦を兼ね。 3・29〜4・1 セシオン杉並
◇第32回青龍書展 広い会場に移って、作品も二×八尺等へ大型化。鈴木翠羊理事長を中心に会員93名が、伝統の切れ味鋭き漢字行草を主体に他も交え。 4・6〜11 すみだリバーサイドホール
◇第26回國藝書道院展 会長斎藤香坡。二×八尺の額装作を主体に出品は約250点。全般には三〜四行の漢字行草が多く、会員一同の足並みも良く出揃っている。 4・6〜11 横浜市民ギャラリー
◇第14回書人社選抜展 主幹梅原清山。軸は二×八尺四分の一、額は二×三尺の枠内と寸法を統一し、出品は全251名。漢字作を主に、整然として好印象。 4・11〜14 新宿/朝日生命ギャラリー
◇第26回桂紅会書展 主宰楢崎華祥の仮名の会。文化勲章受章、日本芸術院会員の杉岡華邨氏が賛助出品。典雅な雰囲気の会場を、全74名の佳品が彩り好評。 4・12〜16 有楽町朝日ギャラリー
◇第24回高友社書展 会長蕗野研涯、理事長蕗野雅宣。役員、同人、準同人、師範、会員と、漢字各体を主に、六×十尺の大作から小品に至る120名の多彩な作品で。 4・20〜24 上野の森美術館
◇第37回猗園書展 故・西川寧直門の会。会員31名と準会員13名が、骨格逞しき多様な漢字作品を主に。内容的にも実力者揃いで、正に玄人好みの高度な展観。 4・22〜28 銀座ロイヤルサロン
◇第69回県展 主催の神奈川県美術家協会(会長松田高明)の創立40周年記念となった同展の総搬入数は952点。内670点が展示され、その実績を更に高めた。 4・30〜5・5 横浜市民ギャラリー
◇第19回日本書鏡院選抜展 恒例の銀座展には、長谷川耕生会長以下52名が出品。古典から時代のいぶきを感じ取っての小作品に、各々が真摯な創意を込めて。 4・30〜5・5 銀座鳩居堂画廊
◇第26回青桐書展 会長鈴木桐華、理事長鈴木響泉以下104名が、淡墨一字書及び濃墨多字数等で、新天地開拓の気運に一丸となり、様々に創作を謳歌し。 5・3〜8 銀座松坂屋カトレヤサロン
◇第17回香象会小品展 故・手島右卿直門の閨秀23名が、半切迄の漢字や仮名に自己の世界を表出せんとしての制作。一作一面貌の佳品に、その実力の程を示す。 5・7〜12 銀座鳩居堂画廊
◇第28回結城天童生々会展 今では希少となった本格派の日本画グループ展。好個な花の静物や国内外の風景で、自然観照の眼も確かに19名が32点を出品。 5・9〜12 川崎市中小企業婦人会館
◇第47回新世紀展 委員及び会員、準会員、一般公募で、第17室迄に339点の出陳。受賞作を中心に意欲的な作品が目立ち、一般入選の動向も活発なものとなっている。 5・9〜19 東京都美術館
◇第28回松声書展 会長中野永峰、副会長中野花舟、理事長川口青澄らを先頭に、二×八尺を主に半切迄の144点で、翠軒流を一途に継承。近年僅かながらに変化も。 5・10〜14 上野の森美術館
◇第25回官公書連役員展 前会長植木九仙の急逝により、川瀬眞洞が新たに会長に就任。出陳は評議員以上で全162点。手堅き作調の多彩な漢字作を主に仮名も散見。 5・10〜14 上野の森美術館
◇第29回玄和書道会選抜春墨展 会長明石春翔。出品は略二×八尺に統一された90点。専ら漢字の世界だが、個性ある表現を求め、各自一作に気概を持って。 5・14〜19 東京銀座画廊・美術館
◇'02独立会員書展 理事長貞政少登。半紙以内の一部作品と、全紙迄の二部を合わせ178点の出陳。雰囲気こそ異なるが、全作を貫く前進性は正に流石の一言。 5・14〜19 東京セントラル美術館
◇独立春季大作書展 R独立書人団の創立50周年特別企画の一環として、会員、準会員より厳選を勝ち抜いた43名が、迫真力に満ちた、エネルギッシュな超大作で。 5・15〜19 上野の森美術館
◇第40回抱土社展 今年も会員の23名が大作、中品、及び有志による小品の書作品で。独立書人団の中枢メンバーが集うこの会。年を重ねて作品は尚も勢いを増す。 5・20〜24 上野の森美術館
◇第40回記念抱一書展 理事長柿下木冠。記念展に際し、企画の選抜大作展も略会期を重ねて、広い東京銀座画廊・美術館で開催。各一作に書一途の心が籠もる。 5・20〜26 銀座アートホール
◇第9回槙社文会展 代表成瀬映山。故・青山杉雨門下451名による、ロビー大作2点に、三×八尺から半切に至る、書作集成の一大展観は、併催の中国書画名品展の82点と合わせ、学識と筆技の高さを裏付ける、質実たるもの。 5・21〜26 池袋/サンシャインシティ文化会館2F展示ホールD
◇第25回かな書展 かつての分裂騒ぎ後も、宮本竹逕氏を中心に、絶える事無く続けて四半世紀。今年も精鋭95名が、かな美の本質を格調高く伝えて。 5・22〜27 日本橋高島屋8階ギャラリー
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