浅田聖子氏は今年、知命を迎えた。書家としての器もこの年代の過ごし方で決まるだろう。そんな氏の小柄な体には、書きたいもの、伝えたいものが様々な形態で満ち溢れている。
個展は6年ぶりで、これが2回目。前の個展では、溌剌とした活きのよい大字が印象に強く、作品にはストレートな判りやすさがあった。六尺正方の“萬物一體”(=写真左)や、幅5メートルに迫る“圓覚”、八尺×六尺の“天に響く海潮音”等の大作に見る力感は、正にその延長上にあって心地良い。
転じて今回どうしても書きたかったという坂口真民の詩“みめいのこんとん”は、原作にのとっり、全て平仮名で表現されている。周囲を縁取る青墨は、視覚効果を上げて未明の空間を演出し、その中に朴訥とした線条を密に浮かべて、混沌の時に湧きいずる心声を具現化する。叡智な感性の成せる、書作の必然を知らせる一作といえよう。他、小品と併せ全44点の出陳。
(7・13〜18、銀座・清月堂画廊)
鈴木景堂氏が主宰する書王社の恒例となる選抜展。「わたくしどもは古典探究の上にたって、より新鮮な感覚と精神性を大切にした個性ある現代書の創作を理想として勉強しています」と図録巻頭に寄せる如く、オリジナルな開拓に基づく線質で、現代書の一翼を担い、団結力の強みを存分に発揮して、エネルギッシュな前進を続けている。
鈴木景堂会長は掲載とした“守天真”(=写真右上)をはじめ“明月照秋葉”、及び“ことごとく靡かんものはなびかせて…”など自詠の二首で4点。他、主なところでは鈴木暎華理事長の陶版“竹聲松影”。総務石島廻山“不似懐人不似禅…”。また常任理事から大場大幹“即今空自覚…”、片倉道子“室生犀星の詩”=暎華賞、西澤厚子“袁士元の詩”=カトレヤ賞、仲西明江“鳥歌花舞”=羽衣賞等に注目。
充分書き込んでの力作により、会場全体が誠意で貫かれている。持った力を出し切る為の真摯な姿勢は、まことに清々しい。
(7・14〜18、銀座松坂屋別館5階カトレヤサロン)
第21回七月展
塔の見える村(マヨルカ) 朝倉勝治 |
大和朝陽 内藤定昭 |
示現会会員の朝倉勝治、館野良行、内藤定昭、中村静子、中山龍史、三杉和子ら6名によるグループ展も、休むこと無く続けられて早や21回を数える。創立当時のメンバーは7名。その星霜にともない、うち3名は既に鬼籍に入られたが、折々に同志が加わって現在にいたる。
出品は内外風景と室内静物で各2点ずつ。併せて150号以上の大作に各々が力を尽くしており、好個のモティーフによる高水準での安定は、やはり流石と思われた。ともに東京教育大学の同窓として、腰の座った探究と足並みの良さは、その持続性においても、大いに注目される貴重な存在といえよう。
年間を通じ、大作は本展向けの只一点しか描かない作家に比べれば、その数倍を経験したことになり、当然その差も出なければならない筈である。すでに彼岸を待つまでもなく、本展での成果が期待される所以。
(7・19〜24、銀座・望月画廊)
主催=社団法人全日本書道教育協会。さる3月18日の高木東扇会長の逝去にともない、梶本令峰氏が新たに会長に就任。第84回展は副会長楢崎華祥、福島一浩(=専務理事兼任)。常務理事根本伸也。理事石沢康仲、高木厚人ら16名。監事嶋田桃翠ら2名と、新体制を整えての開催となった。
元来、教育書道の普及と実践に長き実績を誇る同会ではあるが、高木前会長の理念に基づき、近年は殊に芸術性の面からも着目される作品が増えている。これを引き継ぎ梶本会長は、来るべき21世紀を見据て、「漸新」という言葉を会の指針として選出。その意の如く、ゆっくりと確かな歩みを重ねて会を発展させていきたいと語る。
無論、教育の場では規範性が先ず第一とされよう。書は確かに規範芸術ともいわれるが、臨模一辺倒では手習いの枠を脱し得まい。若い芽を包括する会なればこそ、二極を統合しての大いなる前進を望みたい。
(7・30〜8・4、東京都美術館)
夏は書展の花盛りである。上野の東京都美術館でも全会場が書展で埋まる。そんな中、女性が会長を務める玄海社の全国書道展がある。吉田栖堂の興した会だが、栖堂の没後、求心力の減少しつつあった会を支え、ひとつにまとめあげたのが三上栖蘭である。
栖蘭さんは、師ゆずりの単字行草を得意とするが、現代感覚にも鋭く、古典を拓く一方、現代の生活空問の中の書のあり方を追求する書展も指向している。伝統の玄海展では、漢字を中心に、かな、刻字を加えた三部門制となっており、古典の線の修練の場といえる。「本当は、ここからいかに自分の書を創っていくか、それが問題なのです」とは栖蘭さんの言。
三上栖蘭“天無四壁 地絶八維”は禅語に材をとったが、実に壮大な気字が宿る作である。空筆が生きているからだ。転折の切れ良い関口龍雲、少し渇筆が過ぎた感ある塊力ある牧麗水、中野芳蘭は爽やかな空間が印象的。総合的なリズム、バランス感の良さでは羽生紫蘭を挙げたい。豊容とした豊平峰雲の四字句、若手では蘇東坡詩を筆鋒を
吊り上げて書いた神谷英山のセンス良さ。伊藤双胤、隈田光蘭、知久聖風、佐藤暁亭、寺内草苑他。【美術評論家松原清/全日本美術新聞平成11年9月号より】
(7・30〜8・4、東京都美術館)
理事長星弘道、副理事長石毛如水、日下部清道、宍倉周風、鶴見香萩、山村青雨、吉沢鉄之、常任理事大久保子龍、吉沢石琥ら日本書作院の役員48名による選抜展。行・草を中心に、外連味のない安定した作風はすでに同院の定評とされるところだが、幹部を一堂に揃えての発表の場は、これが3回目となる。
銀座屈指の広い会場を使用し、昨年同様、一人あたり3メ−トルの壁面を割り当てられての競演は、正しく壮観の一言。多彩な手応えの作品は、そのキャリアと、希求する方向の確かさから、いずれも実に味があり、回を重ねるごとの着実な前進性が頼もしい。
長年の実績が物語るレベルの高い大作群の迫力は、正統派としての、たゆまざる前進の中から出てくる、貫祿とでもいうべきか。あたかも膨大なエネルギーを温存しているかの如くであり、層の厚さのみならず、新時代へ向かっての活力が彷彿と感じられた。
(8・10〜15、東京セントラル美術館)
院展、二科、行動のいわゆる第一陣に始まる美術の秋。在野系の社中展もこの時期、盛んに催される。
埼玉県志木市に本拠を置く、産経国際書会理事の岡村翠瑤氏(=作品写真左上)が主宰する瑤樹会書展もその一つで、今年第15回の記念展を迎える。
この会は創立時から毎年かかさず見ているが、漢字、現代書、漢字かな混じりのしっとりと落ちついた墨の世界や、ペン字、書のアートなど、様々な素材と色を駆使した作品が楽しめる。
20代や30代といった若い世代が中心となっての、伸びやかな感性の発露が何よりの魅力だ。聞けばこの9月から新教室も開設されたとのこと。武蔵野の秋を散策がてら、ぜひ一度足を運ばれたい。
10月14日から17日まで。志木市民会館パルシティー。(東武東上線志木駅北口よりバスにて昭和新道下車3分、志木駅より徒歩20分)
【藤谷弥道】
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