財団法人書壇院(理事長大野篁軒)の審査員及び会員を一堂とする大規模な書展。
同院は昨年『書壇発刊七十周年』を記念して幾多の記念行事を完遂したが、その精華の延長線上に置かれた今回展には、熱気の余韻を孕み、従来に増す力作の数々が展示された。
出品作は骨格逞しい漢字を主体に、仮名、南画もバランス良く交えられる。吉田苞竹ゆかりの伝統ある会ゆえに、オーソドックスなイメージが強いが、作品は実に多彩な展開を見せる。大野篁軒“陸放翁句”(=写真右)、市岡弘“太田水穂の歌”、大久保楓紅“夏景山水図”、富田幽蒲“陶淵明詩”の各作が並ぶメインは勿論、広い会場の各ブースには萱沼利子、江川蒼竹、結城巨流、張替秋亭、長井蒼之、西田秋水、柳澤朱篁らの幹部作が配され、全体への要となって緊張感を高めている。
第2会場の銀座画廊美術館の会員作も溌剌としており、400点に迫る展観は質実ともに流石と思われた。
(3・23〜28、東京セントラル美術館)

北斎と小川瓦木展
主催東京国際美術館。
ー21世紀を展望する版画と書ーと題し、書と同様に絵画にも真・行・草があると「三體画譜」を著し、20世紀抽象絵画の先駆となった北斎と共に、世界に通じる書をもって21世紀の美術に多大な影響を及ぼさんとする書家3名の作品を、リレー形式で展示し、顕彰せんとする企画展である。
その第一弾として登場した小川瓦木氏は書業70年。今年、米寿を迎えられるにあたり、これを記念しての開催となった。
出品は音と線をテーマとして制作された“音”(=写真左)“ならぶ”“すき間”“うず潮”などの濃墨大作、および禅僧の描いた□○△を器に“真”“善”“美”と、観世音の“観”(=写真右)各一字を入れた彩書で新作8点。
一見、際立った変哲はないが、生涯をかけて研磨したエッセンスが、墨魂となって太い線情の内に集約する。彩書もまた然り。必然のみによる成立といえようか。他、歴代の作品を交え全38点が理念を語る。
(3・31〜4・11、東京国際美術館)
選抜綜合展
神奈川を拠点に一流一派にとらわれることなく、広く書の普及を目指す日本書道家連盟(会長伊澤西嶽)の選抜第10回記念展。
平成二年七月、念願の東都中央へ進出。第一回選抜女流展の開催を皮切りに、壮流展、大賞展、あるいは役員展と年ごとに企画を変え、意義豊かな発表を重ねて現在に至る。
今回の出品は新進気鋭も含めた評議員以上の73名。
概ね半切以下の手頃な鑑賞作品が多く、漢字では伊澤西嶽会長の篆書による“散懐”(=写真左上)をはじめ、楷書の重田翠村“怡謹”(=写真右上)、草書の塙雲峰“曲江有感”、行草の林清石“常在戦場”、また女流では仮名の鈴木春子“しづかなる…”、同・自吟の井上蒼雨“此の道”、調和体の西井鶴香“青蟷螂”(=写真左)等々、中核メンバーが各体に存分な力量を示して主壁面を引き締める。
これに続く中堅も、幅広い作風で随所に個性の閃きをみせ、清新な息吹を横溢させて、来場者の関心を高めていた。
(4・6〜11、銀座鳩居堂画廊)
会長斎藤香坡。副会長佐々木志峰、澤田香峨、坂本香心。理事長坂本香亭。副理事長安藤紫水、茅野香琢、中野桂月、鷺谷香聲、澤田香墨。
一部出品者が二×八尺及び全紙、二部出品者が半切という範囲の中で、約270点の入魂の作品が構成する壁面は、回を重ねるごとのグレードアップが明確に感じとれる。酒脱な味わいの会長作“王維詩”をはじめとし、これに続く幹部陣もそれぞれの領域に深さと幅を加えた探究の成果を歴然と表し、見応え十分な会場に好感が寄せられた。
来るべき21世紀は記念すべき創立25周年。これを見据えた近年の取り組みは、よりオリジナリティー豊かな世界の創造へと向けられており、個の順調な萌芽から作家集団への変貌も間近き事かと思われた。
主な受賞者は大賞=坂口静湖、準大賞=土屋香藍、神奈川県知事賞=新木清龍、彫刻の森美術館賞=石川晴空、千葉県知事賞=佐藤蓉子等々。
(4・7〜12、横浜市民ギャラリー)
故・田中海庵門下生一同による、伯威書道会の第27回展。会名の伯威は信念をもって自らの書風を貫いた海庵翁の別号。第3回展にて師は亡くなられたが、その後も一門の結束は固く、現在は金井鶴秋氏が中心となって錬成会や下見会を重ね、一同相和して年に一度の発表を続けている。
今回も遺墨“心藝”を囲み、会員45名が日頃の精進の成果を穏やかな中で披瀝している。流れる年月とともに、今では孫弟子の数も増えているが、各自が精一杯の取組を示しており、会員作からは掲載とした金井鶴秋“涼聲度竹風如雨 碎影揺窓月在松”(=写真右)の他、石川卯城、市川渉園、小島慶雲、嶋田桃翠、武田溪谷、玉村海苑、名古屋湘苑、山住慶玉らの作品が特に印象に残る。
進捗は地道ながらも、誠実さが伝わる会場には得がたい和やかさがあって、心静かに楽しめる書展である。
(4・1〜4、セシオン杉並)
プロムナード
油絵の作品を画家のアトリエでイーゼルの上で見るのと、個展会場で額に納まった状態で見るのとで、こんなにも印象が変わるのかと驚いたことがある。
無論、照明や会場の関係もあろうが、木枠にピンと張ったキャンバスでさえそうなのだから、未表装で捲くりの書作品の場合は押して知るべきだろう。書作品の場合、表具は実作と表裏一体を成すものといえる。
そんな表具の老舗である佐久間太熈堂の会長佐久間庸浩氏が、4月12日の午前2時8分、肺炎のため逝去された。享年91歳。戦後の焼け跡から高度成長期を経て平成の世に至り、隆盛を極める書道界の現在は、その意味で故人と共にあったと言っても、過言ではないであろう。天寿とはいえ書道界はまた一つ、時代の要を失った。心からご冥福をお祈りしたい。
【藤谷弥道】
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