美術鑑賞社 インターネットギャラリー
1998年12月10日


 第36回

  抱一書展

 故・山崎大抱に連なる抱一会(理事長柿下木冠)の恒例となる第36回展。

 師亡き後の結束をより固め、出品メンバー45名の更なる探究心が一筋に道を切り開き続けている。柿下木冠“鬼”(=写真左)、小川白果“中世の…”、大石千世“渺々”(=写真右)をはじめとし、大作に果敢に挑んでの時政荘子“ちいさい秋みつけた”=抱一会賞や、会員奨励賞となった阿部桂弦の“急雪舞廻風”等々。純粋な力がそのままエネルギーと化して、新生抱一の源泉ともいうべき現代性に根ざすエスプリの確立を目指しており、各々の表現様式も一段と鮮やかなものになっている。

 一字書の他、漢字、かな、詩文書と内容に富む壁面の展開は、一点一点の呼吸が一体となって伝わって来るような底力を見せる。新しい方向へ邁進するその素地に、今後への期待は膨らむばかりだが、この五月に個展を終え、今後を嘱望された後調香輝氏の急逝は誠に惜しみて余りある。ご冥福を心からお祈りしたい。

(10・12〜18、銀座ア−トホ−ル)

 


 

 第23回

  鶴心同人書展

 産経国際書会副会長を務める山田鶴松氏が主宰する鶴心書道会の第23回展。

 全58名の出品作は専ら漢字の世界だが、仮名も散見される。各作とも素材となる言葉の選定から表現に至る一連の過程に、存分に意を尽くして作品化されており、それが一作一面貌の手応えとなって結実されている。高水準でのまとまりは正に同人展としての面目というものであろう。

 会長作の“一酔千日”(=写真左)は良い酒を飲んで千日寝ていたいといった意味の言葉だが、その多忙な日常を思えば、けだし作者の本音とも思われた。杯を覗き込むような円相のフォルムの中、4字は対角、垂直、水平に、余すところなく密接に呼応する。転じて松長峰石氏の“蛾を憐んで燈を點ぜず”(=写真右)は菜根譚の一節。濃い墨色と表意性に富む字形が絶妙な空間配置をもって、語意に籠もる心情を映し出す。共に書作品成立の必然を如実に表す二点として、挙げさせていただいた次第。

(10・20〜25、銀座タカゲン画廊)

 


 

 書道同文会代表作家展

 昭和24年、高塚竹堂により創設。正統の書道を基礎として、和敬の精神と不断の研鑽により、風格ある書芸の創造を心掛けてきた書道同文会恒例の代表作家展である。今般は創立50周年を記念して、準会員より選抜された53名による中堅作家展(10・24〜29 銀座書廊)と略会期を重ねての開催となった。

 出品は会員以上の108名。漢字、かな共に創意を凝らした佳品が多く、中でも村田会長の蕪村句“秋去りて…”(=写真左)をはじめ、鈴木静村、中山竹径、鈴木青陽、長澤恵苑、鮎川静竹、池田群竹、國貞馨竹、佐藤詩竹など、線質に一段と磨きがかかっており、流石はベテラン揃いと思われた。会場の関係から小品だが、各々に独自な工夫があり、バラエティーがあって、楽しい鑑賞の場となっている。

 都美術館等での本展は、大作主義でも大いに結構であろう。同時に神経の細やかな小品の密度にも、広い共感を呼ぶものがある。

(10・20〜25、東京銀座鳩居堂画廊)

 


 

 第37回抱土社展

 独立書人団の創立者、手島右卿のもとに永く薫陶を受け、名実ともに現在の独立を支える面々24名による至高を極める書展である。

 大字の小林抱牛“如是”(=写真左)、上松一条“潭月”(=写真右)、貞政少登“風骨”、仮名では森本妙子“十六夜日記”、詩文の矢荻春恵“顔”など、4mを超す大作や中品に一年の研鑽と創意を結集する壁面は、正に圧巻たる展観を呈しており、確信に満ち、真剣の如き緊迫感に包まれている。他にも大石千世、柿下木冠、高橋照弘、竹内鳳仙、中野大雅らの各作が特に強く印象に残るが、ことここに至れば、作品成立の可否は、一作に如何に全生命を賭けきるかの一点にかかってくるのであろう。

 実作者にとり、連日がひたすら不断の烈しい錬成に相違無いとすれば、これを享受する側にとっては一作一作の中に、常にフォルムと新手法を探し回っているようなものである。いわゆる本格派として、この会の動向は一切見落とせない。

(10・23〜27、上野の森美術館)

 


 

 第13回

  貞香会小品書展

 貞香会所属作家の希望者は全員出品が建前のこの小品展は、決して強制ではなく、参加は各自の自主性に任されている。出品は顧問佐藤中処、参与晝間欽堂、室生大韻、理事長長谷川耕心(=写真左“恒順衆生”)、副理事長中村素岳、赤平泰処、荒木大樹(=写真右“称名正行”)、及び柏木南城、若井香樹らで同人51名。これに準同人18名、鑑別会員25名、会友、一般21名が加わり、全15点を束ねての第13回展となった。

 漢字を主体に、詩文書、仮名を交えた各作は、気負いのない自由な制作過程を辿ってきただけに、作家の率直な姿を伸びやかに表している。書作にかける各個の楽しみが、連なって大きなふれあいの輪を形成しており、和やかな雰囲気に好感が寄せられた。

 先師中村素堂の理想が、その豊潤な線と共に健全に継承され、新時代へと進む足取りも颯爽として申し分がない。来年八月には先師の生誕百周年を記念して、訪中展を開催するとの由。盛会を期したい。

(10・30〜11・3、銀座松坂屋別館5階カトレヤサロン)

 


 プロムナード

 冬至も間近。陽もいよいよ短くなった。そんな晩秋の一夕、仲代圭吾・行代美都夫妻のリサイタルを聞きに浜離宮朝日ホールへと出向いた。圭吾氏は歌い始めて今年が39年目。あたたかいほほえみの中で”と題した二人のコンサートも、これで14回目となる。

 チェロとギター、そして特別出演に兄の仲代達矢氏を迎えてのステージは、歌も構成も演奏も、全てが洗練されており、また温もりに満ちていた。ピアニスト野島稔のような切れすぎる才能も良いが、人生を積み重ね、様々な経験から醸成されたこのような世界も素晴らしい。曲間の軽妙なトークに満場は爆笑と化すが、その背中に寄せる美都さんの眼差しと微笑みに、温もりは凝縮されていく。 【藤谷弥道】 


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