香坡の世界
國藝書道院会長で、産経国際書会副理事長を務める齋藤香坡氏の書展。平成七年、東京セントラル美術館で開催された大規模な個展は、いまだ鮮明に記憶に残る。その後も実に精力的な活躍を見せるが、地元横浜では久し振りの開催となった。
今回は三会場を同時使用しての展観。第一会場のゴールデンギャラリーには四曲屏風の杜甫詩をはじめとする漢詩作や、手頃な小品の書画などで51点。第三会場のレストランスエヒロにもさりげなく作品が配されるが、メインはやはり第二会場のギャラリーヨコハマということになろう。会場は自然木や林立する木々、落ち葉、白砂利などで区分けされ、壁面をめぐる散策路となって来場者を誘導する。二×八尺で六〜十幅に及ぶ正統派の大作群も、心象より派生する抽象作も、またブラックライトに浮かび上がる一室の前衛作品群も、全ては一体となり、会場そのものが作品となって作家を語る。正に独壇場の氏ならではの世界である。
(9・3〜8、ギャラリーヨコハマ/他二会場)
今日より明日へ。このような気持ちが過去最高の出品数となりました。会員諸賢の努力と情熱の賜であります。《古典に立脚しながら現代性 それぞれが自己主張》。作品に意気が感じられ厳しい中にも明るい書展となりました。と、会長寺井朴堂氏(=作品写真左「昂」)が寄せる如く、広々とした会場は清新な空気に満ち、壁面の随所から一途な情熱が迸る。
21世紀を目前に、書壇も世代刷新の時機を迎えている。この玄潮会にも水谷龍雲、桑山大道、石原太流(=作品写真中「公平無私」)、小川秀石(=作品写真右「風雨」)、紙屋鶴峯、田村白舟、徳野恵美子らの幹部陣をはじめとし、新たな世代の感覚による探究の成果として、大いに注目させる動きが出始めている。つねに制作される作品というものは、その時代の反映なくしては成立しない以上、これは当然のことだが、現代を担う作家によってのみ、明日の新しい開拓が可能とされる。この土壌にかける期待が、すこぶる大きいのは、そのためでもある。
(9・15〜20、東京セントラル美術館)
第5回竹扇会選抜書展


書道芸術院副会長を務める小伏竹村氏門下の竹扇会より、書道芸術院審査会員候補および無鑑査の作家25名を選抜しての第五回展。
これまでは地元である大阪で回を重ねてきたが、今回は一つの区切りとして、東京での開催となった。選抜メンバーにとっては初披露の場。大字少字数を主体に、より独創的なものをとの観点から、フレッシュな作品が出揃い、見応えがあった。そんな中から一点、木村乙扇“妍”(=写真右上)をピックアップしておきたい。
小伏会長は“表”(=写真左上)の一字作を半切正方で賛助出品。これは同時期に銀座で開催された書道芸術院秋季展、及びこの11月初旬の大阪における竹扇会本展での各出品作と、三部構成になっているとのこと。銀座での作品が静から動に移行しようとする瞬間の緊迫を込めたものとすれば、こちらには左方空間への溌剌としたムーブメントが感じられる。この視点の是非は、完結となる本展作に託されよう。
(9・28〜10・3、アートサロン毎日)
第43回目白会書道展


現代の書壇に確固たる仮名美の典型を示す、仲田幹一氏の一門による目白会の第43回展。
切れのある線質は、いわゆる幹一仮名の最も端的な特長とされる。一刀のもとに切り下ろすが如き鋭利さは、ときに冷徹なまでに澄んだものともなろう。しかし限りなき探究の世界にあっては、ここに至ってこそ初めて作者の体温が籠められるのである。
仲田会長の“このさとを…”(=写真左)には、それが如実に感じられる。とても白寿を迎えられたとは思えぬ、瑞々しき感性の発露である。この11月17日〜23日にかけ、日本橋三越本店六階特選画廊において氏の白寿記念書展が開催されるが、79年に及ぶ書業の代表作40余点を一堂に、その軌跡は更に明らかなものとなろう。場中詠み人西行の心情を重ねる島倉華越“嬉しさは…”(=写真右側右)、自詠句に情感を映す米本一幸“菫咲く…”、および手島朱琳“万葉集”、仲田美佐登“笈の小文 芭蕉”、渡辺智子“哢中山人記”等の各作も特に印象に残る。
(9・30〜10・5、松屋銀座画廊)

1998
独立秋季書展
五月の会員展に続く独立書人団恒例の秋季展は、準会員、会友を対象とする、まさに登竜門的な書展である。
同団には準会員598名、会友1849名が在籍するが、今回この展覧会への選抜枠を突破できたのは準会員が139名、会友は僅か36名に過ぎない。入選率では前者で約23%、後者は何と2%弱という厳選なのである。創作、臨書、現代文体と、凌ぎを削った出品作は当然所々の可能性を内包しており、果敢に挑み続ける姿勢に、独立の持つ底力が感じられる。
今回掲載させていただいたのは、その中から更に絞り込まれ、準会員賞に輝いた二点。島田淑子“臨黄庭経”(=写真左)は、六年の歳月をかけ追求してきた作品。朱墨に墨を少し混ぜ、全体に素材となる古典への想念が鋳こまれる。松永一貫“断金”(=写真右上)は、あまり掠れを使わない濃墨の素朴な味わいの内に亡き師・山崎大抱ゆかりの強き意思力をたぎらせる。来年五月に企画される個展が、今から待ち遠しい。
(10・1〜6、新宿・朝日生命ギャラリー)
日本現代書新加坡国際交流展



この11月1日〜5日、新加坡(シンガポール)宗郷会館聯合總会礼堂に於いて開催される日本現代書新加坡国際交流展に先立ち、恒例の日本側出品作内見展が東京の銀座で行われた。
先ず出品作150点の中から特に印象深かった3点に触れたい。常任顧問国井誠海氏の“癒”(=写真左)は、淡墨の澱みないフォルムで、筆勢の奥底から気の波動を湧き上がらせ、理事長を務める佐野丹丘氏の“愛”(=写真中)は、母の象形によるコンポジションでいのちの証としての律動を伝える。副理事長須藤松閑氏の“涼しい風”(=写真右)は、渇筆を活かしたダイナミックな造形でイメージを増幅。熱帯の客地に日本からの涼風を運ばんと試みている。
同展を主催する東洋書人連合は、中国の北京を皮切りに十数年に渡って世界各国の都市で日本現代書の紹介を続け、書を通じた国際文化交流に、多大な貢献と実績を成してきた。その先鞭性と果敢な実行力には、ただ敬服あるのみ。
(10・5〜7、洋協アートホール)
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